思い込みを科学で打ち破った哲学者ベーコンの教え
こんにちは。最近、哲学に興味を持ち始めた哲太です。「それって言う必要がありますか?」が口癖のくせ者です。
今回はベーコンについて解説していきます。
「ワクチンを打つと、マイクロチップが仕込まれて、5Gにつながる身体になるらしいよ」
【参考】
「ワクチンにはマイクロチップが仕込まれ、5G通信で操作される」(毎日新聞)
2021年夏、新型コロナのワクチン接種が始まった際、こんな驚くべき言葉を耳にしました。実際、アメリカでは14人に1人が「ワクチンには追跡用チップが仕込まれている」という噂を信じていたという調査結果もあります。
なぜ、このような科学的根拠のない噂が広まってしまうのでしょうか。
今回は、400年以上前に「科学的思考」の重要性を説いた偉大な哲学者、フランシス・ベーコンの考え方から、私たちの思考の偏りについて、じっくりと考えていきたいと思います。
ベーコンってどんな人? ~科学革命期の天才政治家・哲学者~

1561年、イギリスに生まれたフランシス・ベーコンは、政治家の父ニコラス・ベーコンのもとで育ちました。
21歳で弁護士となり、23歳で下院議員に。その後、法務長官や枢密顧問官などの要職を歴任し、男爵や子爵の位も授かった、まさに英国を代表する知識人でした。
ベーコンが生きた時代は、まさに科学革命の真っ最中。
望遠鏡で宇宙の神秘が解き明かされ、顕微鏡で目に見えない微生物の世界が発見され、羅針盤の発明によってコロンブスやマゼランの大航海が可能になりました。
さらに、グーテンベルクの印刷機の発明により、人類は膨大な知識を大量に共有できるようになりました。
中世の長い停滞期を経て、欧州は新たな知の時代への扉を開こうとしていたのです。
しかし、当時のヨーロッパでは、まだまだ古い考え方が根強く残っていました。
大学などで教えられる学問の主流は、キリスト教の教えとアリストテレスの哲学を組み合わせた「スコラ哲学」でした。
これは、聖書やアリストテレスの著作を絶対的な真理として扱い、その解釈を深めることに重点を置いた学問体系でした。
なぜベーコンは「アリストテレスが悪い」と考えたのか?

ベーコンは若い頃、当時の常識通りスコラ哲学を学びました。しかし、学べば学ぶほど、この学問に疑問を感じるようになりました。
「古い理論に権威をつけているだけで、新しい真理の発見には全く役立っていない。むしろ、科学の進歩の妨げになっているのではないか」
と考えたのです。
そこでベーコンは、60歳のときに『ノヴム・オルガヌム』(新機関)という本をラテン語で著しました。この本のタイトルには、深い意味が込められています。
紀元前322年に亡くなったアリストテレスの論理学は、「オルガノン(道具)」という書物にまとめられ、それまで1000年以上にわたって、あらゆる学問の基礎として扱われてきました。
ベーコンは、その「オルガノン」に「新しい」という意味の「ノヴム」という言葉をつけ加えることで、「アリストテレスの古い論理学を超えて、新しい方法論を提案する」という意思を示したのです。
これは、当時としては非常に大胆な挑戦でした。
実は、この本は、壮大な計画の一部分にすぎませんでした。ベーコンは全6部からなる大著『大革新』を構想し、そこで自然界のあらゆる現象を解明し、学問全体を新しく作り直そうと考えていたのです。
しかし残念ながら、実際に本として完成したのは第1部と第2部(この『ノヴム・オルガヌム』)だけでした。
アリストテレスの三段論法の限界とは?

アリストテレスの論理学で最も有名なのが「三段論法」です。
これは「大前提→小前提→結論」という形で考える方法です。
たとえば、
「すべての人は死ぬ(大前提)」
「ソクラテスは人である(小前提)」
という二つの前提から、
「だから、ソクラテスは死ぬ(結論)」
という結論を導き出します。
この考え方は非常にシンプルで分かりやすいため、中世ヨーロッパで広く受け入れられ、1000年以上にわたって使われ続けてきました。
特に、スコラ哲学では、この三段論法を使って神の存在を証明しようとしました。
たとえば、「この世界には原因と結果の連鎖がある(大前提)」「すべての結果には原因が必要である(小前提)」から「だから、最初の原因である神が存在するはずだ(結論)」というような論理を組み立てていたのです。
しかし、ベーコンはこの三段論法を厳しく批判しました。
『ノヴム・オルガヌム』の中で、
「この論理は、真理の探究よりも、むしろ誤りを固定化することに効果がある。したがって有用というよりむしろ有害である」
と述べています。
なぜベーコンはそこまで言い切ったのでしょうか。
それは、三段論法には決定的な欠点があったからです。
三段論法は既に知っていることを整理して説明するには便利ですが、新しい真理を発見することはできません。また、大前提自体が間違っていれば、いくら論理的に考えても、正しい結論には辿り着けないのです。
ベーコンが提案した「帰納法」とは? ~ミツバチに学ぶ思考法~

では、新しい真理を発見するためには、どのような方法が必要なのでしょうか。
ベーコンは『ノヴム・オルガヌム』の中で、
「ただ一つの希望は真の『帰納法』のうちにある」
と述べています。
帰納法とは、具体的な事実をたくさん集めて、そこから一般的な法則を導き出す方法です。
たとえば、「ソクラテスは死んだ」「プラトンも死んだ」「アリストテレスも死んだ」という具体的な事実から、「人は死ぬものだ」という法則を導き出すのです。
ベーコンは、この帰納法を科学的な研究方法として確立しようとしました。
たとえば、地動説の発見過程を帰納法で説明すると、「金星に満ち欠けがある」「火星の見かけの大きさが変化する」「木星に衛星がある」といった観察事実から、「太陽が中心で、惑星がその周りを回っている」という結論を導き出すことができます。
ただし、ベーコンは単に事例を集めるだけでは不十分だと考えました。
その例えとして、ミツバチの働きを挙げています。アリのように単に事実を集めるだけでもいけないし、蜘蛛のように自分の中だけで考えを紡ぎ出すのもよくない。ミツバチのように、集めた材料(事実)を自分の力で加工し、新しい価値(真理)を生み出すことが大切だと説いたのです。
この考え方は、現代の企業経営にも通じるものがあります。
たとえばトヨタ自動車では、「机上の空論ではなく、三現主義(現場・現物・現実)」を重視しながら、「なぜを5回考えろ」という思考法も実践しています。
【参考】
三現主義とは?トヨタやホンダの事例と5ゲン主義の意味(GENBA KAIZEN Lab)
これは、まさにベーコンが提唱した帰納法の現代版と言えるでしょう。
まとめ ~科学的思考の第一歩~

ここまで見てきたように、ベーコンは400年以上も前に、科学的思考の重要性を説きました。
特に、既存の理論や権威に頼るのではなく、実際の観察や実験から真理を見出そうとする姿勢は、現代の科学の基礎となっています。
たとえば、冒頭で紹介したワクチンに関する噂について考えてみましょう。
「ワクチンにマイクロチップが入っている」という情報は、実際の観察や実験に基づいているでしょうか? それとも、単なる噂の連鎖でしょうか?
ベーコンの教えに従えば、まずは具体的な事実を集め、それを丁寧に検証していく必要があります。
実際、2023年になると、新型コロナウイルスの弱毒化に伴い、ワクチン接種の副反応とコロナ感染のリスクを科学的に比較検討する議論が始まりました。
これこそが、ベーコンの求めた科学的アプローチと言えるでしょう。
なお、ベーコンは自身の実験への情熱があまりに強すぎたために、65歳という若さで命を落としています。寒冷な気候の中、食肉の腐敗を防ぐ実験として鶏に雪を詰める実験を行っているうちに気管支炎にかかり、それが重症化してしまったのです。
もし彼がもう少し長生きしていれば、『大革新』の残りの部分も完成させることができたかもしれません。
しかし、彼が残した科学的思考の方法論は、現代に至るまで私たちの知的活動の指針となっています。
次回は、ベーコンが警告した「4つのイドラ(思考の妨げとなる先入観)」について、具体例を交えながら詳しく見ていきたいと思います。
【参考資料】
「ノヴム・オルガヌム」(岩波書店)
「世界のエリートが学んでいる 教養書必読100冊を1冊にまとめてみた」(KADOKAWAオフィシャルサイト)
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