僕らを育ててくれた歌声 ~追悼・水木一郎さん~
勇敢に戦った男がいた 人生を戦った男がいた
作詞:八手三郎(平山亨) 作・編曲:菊池俊輔
自由のために 愛のために 君は何にかけ 何と戦うか
たったひとつの この命を はるかなる愛に かけて戦う
それだけでいいのさ おれは おれは 仮面ライダー
仮面ライダー(スカイライダー1979年)EDテーマ「はるかなる愛にかけて」より
皆様こんにちは、デザインチームのSです。
このブログを書いているのは2022年の12月13日ですが、おそらくはこの原稿が皆様のお目にかかるのは年明け過ぎかと思います。
他のテーマを書こうと思っていた矢先、仕事帰りの電車内でTwitterを見ていた時、アニソン歌手の水木一郎さんの訃報が飛び込んできました。
ニュースを見た瞬間は全く現実感が感じられず、ただただ呆然としていました。
享年73、あまりにも早過ぎる逝去です。
一晩明けて気を取り直し、今回は子供の頃から親しんだ水木さんの歌声を思い起こしつつ、個人的な思い出をからめながら水木さんの業績を振り返ってみたいと思います。
1976年生まれの筆者がリアルタイムで水木さんの歌声に触れた最古の記憶は、冒頭に引用した仮面ライダー(スカイライダー)の他、同時期のメガロマン、恐竜戦隊コセイドンの主題歌でした。
当時のアニメ・特撮ソングは水木さんの他、ささきいさおさん、堀江美都子さん、子門正人さんのアニソン四天王の全盛期から徐々にニューミュージックの歌手さんやアイドルさんといった他ジャンルの音楽畑の方々が参入しつつあった過渡期でもありました。
自分はそうした新しいアニソンに触れる傍らで、地デジや多チャンネルなんて影も形もない当時はこれまた全盛期だった早朝や夕方の再放送枠で水木さんの歌声に接していくことになります。
「マジンガーZ」
「超電磁ロボ コン・バトラーV」
「鋼鉄ジーグ」
「宇宙海賊キャプテン・ハーロック」
「侍ジャイアンツ」
「ムーの白鯨」
同時期にリアルタイムで放送されていた
「とんでも戦士ムテキング」
「百獣王ゴライオン」
「ゲームセンターあらし」
「わが青春のアルカディア 無限軌道SSX」
「プロゴルファー猿」
「時空戦士スピルバン」
などなど。
こうして作品名を挙げるだけでも「あの曲も水木さん!!」と思い起こされる方々も多いのではないでしょうか。
前述の作品群のOP・EDテーマ曲だけでなく、挿入歌のみを歌われた作品も含めると半世紀以上の歌手活動の中で持ち歌は優に1200曲以上を超えるそうで、あらためてその精力的な歌手活動の凄さに圧倒されます。
数字上の記録だけではなく、持ち歌の殆どが誰でも歌声とメロデイー・歌詞を思い浮かべることが出来るという点がまた凄いとしか言いようがありません。
1990年代に入るとゲーム「スーパーロボット大戦」シリーズなどのテーマソングで新たなファン層を獲得し、国内外を問わず精力的なステージ活動を続けられて、「itirou mizuki」の名前は「アニソンの帝王」の称号とともにその歌声は世界中のアニメ・特撮ファンの間に広まって行きます。
1999年には伝説の「24時間1000曲ライブ」を敢行し、ファンを驚かせました。
筆者はこの時期の楽曲では「スーパーヒーロー作戦!」「マジンカイザー」がお気に入りです。
長年の活動をずっと拝見していて「この人は衰えるということがないのだろうな。」と、ずっと思っていました。
アニメ・特撮が「テレビまんが」と呼称されていた時代から自らの力を常に最大限に発揮し、その歌声で全国の子供達を魅了しながら、その陰ではたゆまないトレーニングを絶やすことなく歩み続けた歌手人生だったのだと感じます。
2021年4月に声帯不全麻痺の症状が出ている事をTwitterで公表されてからは、リンパ節や脳への転移を伴うステージ4の肺がんを患いながらリハビリを続ける傍ら、車椅子姿でもステージに立ち続けるその姿は、ご自身が長年歌い続けて来られたスーパーヒーローの姿そのものでした。
ひとのいのちは つきるとも 不滅の力 マジンガーZ
作詞:小池一夫 作・編曲:渡辺宙明 マジンガーZ(1972)挿入歌「Zのテーマ」より
争いたえない この世の中に 幸せ求めて 悪を撃つ
人の頭脳をくわえたときに マジンガーZ マジンガーZ
おまえこそ 未来もたらす
2022年6月には「マジンガーZ」「人造人間キカイダー」以来、水木さんの音楽人生の師匠であられた作曲家の渡辺宙明先生が96歳の生涯を全うされました。
引用した「Zのテーマ」について、1978年徳間書店刊行の「ロマンアルバム9 マジンガーZ」で宙明先生はこんなエピソードを述懐されています。
「Zのテーマ」についてあるファンの女性から次のような話を聞かされた。
「ロマンアルバム9 マジンガーZ」より
彼女の友人のある女性が病気で他界してしまったのであるが、彼女は死の直前まで「Zのテーマ」を口ずさんでいたそうである。
私にそのことを教えた彼女は
“彼女はこの歌に勇気づけられ病気と戦っていたのでしょう。
この歌は、悲しい時苦しい時に私たちの心の支えになってくれるのです。
世の中に数知れぬほどの歌がありますが、
こんなにも私の心に入ってきた歌は「Zのテーマ」だけです”
と語った。
私はその話を聞いて胸が熱くなり生きがいとはこういうものかと感じた。
その話によって私も勇気づけられたのである。
歌手人生に迷いを感じ、悩んでいた時にこの話を宙明先生から聞いた水木さんは、一気に迷いが吹っ切れたといいます。
自分の仕事の意味・意義、そして大切さ。自分の歌が人に生きる勇気を与える力を持っていることに気づいたのだそうです。
同じ頃にもう一つ、この歌に出会ったことによって自分の歌手人生の大きな励みになったと語っておられた一曲があります。
そちらを引用させていただき、このコラムを終えたいと思います。
そんなに寂しい顔で 君は何を待ってる
作詞:山川啓介 作曲:浜圭介 編曲:羽田健太郎
しっかり抱いてた夢は どこへ落とした
一度で負けちゃいけない 遠い空を見ろよ
苦しみの雲から のぞく日のきらめき
フライ・トゥー・ザ・ムー あこがれへ飛びたて
フライ・トゥー・ザ・ムー 君は飛べるんだ
ムーの白鯨(1980)OPテーマ「ムーへ飛べ」より
最後に一言。
長い間、世界中のアニメ・特撮ファン、そして世界中の子供たちに勇気と優しさを与えてくださり、本当にありがとうございました。
今はゆっくりご生前の病魔との戦いの疲れを癒して、また向こうの世界でも、その歌声を響かせてください……。
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※このブログは、神奈川県横浜市にある就労継続支援A型事業所「ほまれの家横浜」のSが執筆しました。